Legends / Wilson Tanner

Wilson Tannerによる「Legends」LP (2025)です。

これは、南オーストラリアのManon Farmのブドウ畑のあいだで生まれた、ワインに酔った農耕ファンタジーです。
これまでの作品が、パース郊外の裏庭で陽に焼かれながらまどろむ『69』や、ポート・フィリップ湾を漂う川船の上で生まれた『II』のように、海の空気や漂流感に満ちていたのに対し、本作『Legends』では、潮の香りは畑の汗に、乾いた大地を踏みしめるブーツの音と、夏のクリケット中継が流れるラジオへと姿を変えました。

農耕の霞みのなかから立ち現れるのは、働くブドウ畑の風景だ。カモや犬、タゲリが割り込み、トラクターや四輪バギーが駆け抜ける。ステンレス製のタンクが、画面の端で鈍く光る。商用電源を使わずに録音されたManon Farmのデモ音源は、農作業の創意工夫に満ちています。風、金管、バラライカ、風船、パイプ、シンセなどが、ワイヤーやテープ、紐でスタッフに取り付けられ、畑のなかで演奏されました。

『Legends』は、オーストラリアの自然派ワイン文化のカリカチュア（風刺画）であり、そこには神話と堆肥が詰め込まれています。

仲間同士でガブ飲みしながら、ゲップをこぼすように、Wilson Tannerはこの環境そのものを、荒々しく濾過されていない音楽へとプレスしていく。外した音、余りもの、沈殿物――それらをすべて瓶の中に残したまま。

ローファイなサウンドとノスタルジックな世界観を演出してくれるWilson Tannerの最新アルバム。公式の解説にもあるように、ワイン農場の生活、風景に根ざしています。音だけでも十分愉しめますが、実際の写真も見るとなお味わい深いです(Ammel)

Manon Farmのギャラリー(外部サイトに飛びます)