
ammelでセレクトした音楽。それらを創ったアーティストの方々に、ammelのために選書をして頂く企画です。
第四弾は、昨年Kanu Kanu RecordingsよりリリースしたThrillsに次いで、今年2025年にはデビューフルアルバムISKRAをMIASMAHよりリリースした、ポーランド出身のマルチインストゥルメンタリスト Olga Anna Markowska(オルガ・アンナ・マルコフスカ)です。
日本と同様に四季がはっきりと分かれているポーランドで産まれたOlgaはアイデンティティ、場所の記憶、人と自然とのつながりといったテーマを探求しています。そんな彼女に選んでいただいた本は、ポーランドの昔話「BASNIE POLSKIE」でした。
今回選書していただいた本の、彼女の思い出深いお話は残念ながら日本語、英語ともに出版されているもの・流通しているものでは現存していませんでした。しかし、英訳したお話を送っていただきました(!)ので、日本語訳したものをこちらから是非読んでみてください。

「『BASNIE POLSKIE』は、単なる文学作品としてだけでなく、個人的な思い入れのある特別な一冊です。」
「私がこの本を見つけたのは、祖父母の allotment(家庭菜園の小屋)の屋根裏でした。表紙の内側には、母の学業の成果を称えて贈られたという献辞が書かれていました。この本を読み進めるうちに、登場人物や物語の舞台が鮮明に思い浮かび、まるで映像が頭の中に広がるような感覚を覚えました。」
「特に深く心に残ったのは、ボレスワフ・プルスの「眠れる乙女と小川の底の魔法の宝物」の物語です。この話は幻想的でありながら、決して幸福な結末を迎えるわけではありません。しかし、それが私の視覚的・音楽的な感性に大きな影響を与えました。」
「この物語には、二つの重要な教訓が込められています。一つ目は、恐怖を克服するための勇気と内なる強さの大切さです。主人公はためらったために悲劇的な結末を迎え、永遠の苦しみへと閉じ込められてしまいます。二つ目は、勇敢さと共感の間の葛藤です。彼の恐れは、純粋な心と、他者を傷つけることへの懸念から生まれたものでした。物語は、思いやりが尊いものである一方で、決断の瞬間に迷いが生じることで、行動を妨げることもあると警告しています。」
ー教えて頂いた「眠れる乙女と小川の底の魔法の宝物」のお話は、私も何回も頭の中で世界を想像しながら読み、考えさせられています。あなたの音楽は歌詞がなくとも暖かさ、奇妙さ、幻想さ、メッセージ性を感じさせる世界観を構築していると個人的に感じます。Polish Talesのような幻想的かつメッセージ性、教訓のある本が直接作曲に影響することはありますか?
「ポーランドの昔話はあまりに深く自分の中に根付いているので、意識せずとも自然と音楽に現れてしまいます——それは抽象的で非言語的なかたちで、ですが。」
「あの昔話は、子どもの頃からずっと心と記憶に焼きついていて、生涯忘れることはないと思います。今でも、大人になった今でも、鍛冶屋が少女の額からピンを引き抜いたときのこと——そして彼女の恐怖に満ちた表情——あの瞬間の感情を思い出します。彼はその行為が少女を傷つけたことに気づき、どれほど衝撃を受けただろうかと想像します。その行為は彼自身の破滅につながったけれど、同時に彼の優しさをも浮き彫りにしました。」
「私が音楽を作るとき、すべてはまず心の中から始まります——感情や体験、場所の記憶が溶け合って曖昧になる中で、音楽は、それらすべての物語や語られなかった感情を解き放つ触媒のような存在になります。時には新しい物語を想像したり、架空の人物の感情に自分を重ねて、その心を音に翻訳していきます。」

ー今回のISKRAは真っ赤な盤でした。思い出深い本として選んでいただいた「Polish Tales」の、おそらく当時あなたが屋根裏から見つけた本も真っ赤な表紙だったと思います。ポーランドの人々にとって赤はやはり特別な意味があるのでしょうか?
「レコードのカラーについてですが、『赤』がいいなと思っています——血の色です。血というのはとても両義的な液体ですよね。」
「脆さや傷、弱さの象徴であると同時に、生命そのもの——それがなければ生きられないもの——でもあります。私にとって、「赤」は絶対的で妥協のない色です。そして、あの物語集のカバーにも完璧な選択だと思います——まったくの偶然だったのに、とても象徴的な一致に思えます。」
店頭でグラシン紙で包まれ、文字の陰翳を朧げに映し出している本がありましたら
是非手に取ってみてください。そして、どんな人が選書したのかお気軽にお尋ねください。
その本を大切に想ったり、その本から人生に影響を受けた人の創った音楽が、
ammelにはあります。