
ammelでセレクトした音楽。それらを創ったアーティストの方々に、選書をして頂く企画です。
第五弾は、日本的なエレクトロニカのメルヘンな要素と、UKシーンの攻撃的なビートの組み合わせが強烈なイギリス出身電子音楽プロデューサー Iglooghostです。2024年に発表した『Tidal Memory Exo』では自身のボーカルとダークで退廃的な世界観を前面に押し出し、聴覚だけでなく視覚的な時空を生み出しました。
そんな彼に選書して頂いた本は、日本のSF作家 酉島伝法の『皆勤の徒(英題:Sisyphean)』でした。

ーこのプロジェクトを下北沢のイベントであなたに会って最初に紹介したとき、日本人作家、それもSF作家の本が出てきたのには驚きました。でも同時に、あなたの音楽のスタイルとも深く通じるものを感じました。
「すぐに思い浮かんだのは、最近は本をあまり読んでいないからかもしれません(笑)。たまたま手に取った本が、今の自分の関心にぴったり合っていたのは本当にラッキーでした。ここ数年、腐敗した生体機械的な海のようなテーマで音楽を作っていたので、『皆勤の徒』の世界観にはとても共鳴しました。」
ーもしよろしければ、『皆勤の徒』との出会いについて教えてください。
『皆勤の徒』との出会いは、あの表紙に惹かれたのがきっかけでした。巨大で肉体的な、有機的な卵のような構造物が鉛筆画で描かれていて、本当に美しいんです(酉島伝法自身の絵です)。
ー私自身もSF作品の小説は国内外のを愛読してきましたが、酉島伝法の『皆勤の徒』は今回初めて知りました。表紙や挿絵に見られるような世界観の描写が鮮烈で、その複雑な言語表現とあいまって、無機的というよりはむしろ非常に有機的な感覚を覚え、読んでいてとても楽しめました。
「 本当にすごい作品ですよね。あまりにも複雑で異質な書き方なので、読んでいると現実感が少し遠のいていくような感覚になります。地に足がついたようなわかりやすい要素が一切なくて、この世界の背景や前提はまったく説明されないのだと受け入れるしかないんです。物理的なもの、有機的なもの、機械的なものの描写の境界があいまいで、まるで線形のフィクションと不可解なマニュアルの間を揺れ動いているかのようです。
SFの多くは未知の世界や存在を人間らしく描こうとしますが、『皆勤の徒』の世界には、人間的な要素がほとんどありません。たまに「地球的」あるいは「人間的」な感覚をかすかに感じる瞬間があっても、それはあまりに複雑な世界に長く浸かりすぎたことで頭の中に生まれたパレイドリア(錯覚)かもしれないと思ってしまうほどです。」
ー英語版も同じかと思いますが、日本語版では物語が四つの章に分かれていて、それぞれまったく異なる世界が描かれているようでいて、どこかで密かにつながっている構成になっています。その中で特にお気に入りの章はありますか?
「一番好きなのは、最初に登場する世界かもしれません。冒頭から、ある種の生体技術的な肉体労働に囚われた悲惨な主人公が出てくるのですが、そのまま本を始めるのってすごく大胆だなと思いました。読んでいると、当然のように「主人公がどこかの窓から逃げ出して、典型的なSF的冒険が始まるんじゃないか」と思ってしまうんですが、それが決して起こらない。代わりに、状況はどんどん退廃的で屈辱的になっていくし、それがますます複雑な形で描かれていくんです。この物語は、内容そのものと同じくらい、まるで見知らぬ物語構造に従って進んでいるような印象があって、それにすっかり引き込まれました。」
ーSFや読書は子どもの頃から身近なものでしたか?
「 小さい頃から、密度の高い世界を想像することにはずっと惹かれていましたが、それはよくおもちゃやメディア・フランチャイズを通じてでした。もちろん、そういったものは本や映画ほど複雑ではないことが多いので、説明されない細部を勝手に想像したりするのが好きだったんです。中核にあるアイデアが説明されていなかったり、空白が多く残された世界観が特に魅力的でした。だから、どこか「空洞な」おもちゃのフランチャイズなんかは、頭の中で自由に想像を広げるのにぴったりだったんです。」
ービジュアルといえば、実際にお会いしたときにも感じましたが、あなたのファッションは本当にかっこいいです!本の話から少しそれますが、お気に入りのファッションブランドなどありましたか?
「Haha thanks so much! 僕は今取り組んでいる音楽やビジュアルのテーマに関係する、ちょっと奇妙なアーティファクトを探すのが好きなんです。たとえば、小さな化石をネックレスにしてみたり、変わった博物館のギフトショップでTシャツを買ったりとか。」
店頭でグラシン紙で包まれ、文字の陰翳を朧げに映し出している本がありましたら
是非手に取ってみてください。そして、どんな人が選書したのかお気軽にお尋ねください。
その本を大切に想ったり、その本から人生に影響を受けた人の創った音楽が、
ammelにはあります。